Interview

名作を、もう一度届ける。『天使のたまご4Kリマスター』が臨む先は【前編】

2025年に40周年を迎えたことを記念し、アニメ『天使のたまご』が4Kリマスターという新たな装いで蘇りました。
原案・脚本・監督を押井守(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)、原案・アートディレクションを天野喜孝(「ファイナルファンタジー」シリーズ)が務めた本作は、その独自の世界観と美しい映像で、世界中のアニメファンに強烈な印象を与え続けています。

今回製作された『天使のたまご 4Kリマスター』は、第78回カンヌ国際映画祭のクラシック部門(カンヌ・クラシックス)に選出され、シネマ・ド・ラ・プラージュ(Cinéma de la Plage)にてワールドプレミア上映が行われました。
同部門は、復元された傑作や過去の名作の再発見を目的として設立されたものです。黒沢明監督作『七人の侍』の4K修復版や、日本初のカラー長編アニメ映画『白蛇伝』など、映画史において重要な日本映画が上映されてきた経緯もあり、本作の上映も大きな注目を集めることとなりました。

この4Kリマスター版の上映を陰で支えたのが、徳間書店 ライツ事業局 クロスメディア事業部 後藤 英二郎さんです。
「名作を、もう一度世界に届ける」——ライツ担当として “作品の再価値化”に挑戦した、その背景や仕掛け、こだわりについてお聞きしました。
【前編】では、本作と徳間書店の関係から、4Kリマスターに際し映像や音でこだわった点などをたくさんお話しいただきましたので、その内容をお届けします。


押井守 × 天野喜孝
ふたつの若き才能が産んだ伝説のオリジナルアニメが4Kリマスターで蘇る

原案・脚本・監督 押井守(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)、原案・アートディレクション 天野喜孝(「ファイナルファンタジー シリーズ」)が手がけたアニメ『天使のたまご』。1985年にOVAとして発表された本作は、今や世界的なクリエイターである押井と天野が、若き日にタッグを組んで産み出した作品だ。その美しい映像と他の追随を許さない圧倒的な世界観で熱狂的なファンを生み、アート作品としても高く評価され、伝説の作品としてその名をアニメ史に刻んだ。

このたび、公開40周年を記念して4Kリマスター版を製作。押井守監督本人による監修のもと、35mmのフィルム原版からスキャニングし、最新技術を用いて4Kリマスター化しました。

©押井守・天野喜孝事務所・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ ©YOSHITAKA AMANO

– ブルーレイ情報 –
『天使のたまご 4Kリマスター』
特装限定版 4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Discセット
● 通常版 Blu-ray 
 発売日:2026年4月22日(水)
 発売元:徳間書店


徳間書店と『天使のたまご』という作品の関係について教えてください。

徳間書店は1980年代前後から、書籍・実写・アニメを連動して展開するメディアミックスを多く手掛けてきました。(参考:映像作品アーカイブ – 徳間書店)その中でも『天使のたまご』は、1985年に当時新たに生まれたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)に徳間書店が初めて挑戦した作品で、以降、同じOVA作品では「銀河英雄伝説」や「紺碧の艦隊/旭日の艦隊」を始めとする数々の名作が生まれました。

『天使のたまご』は、アニメ『うる星やつら』で当時のアニメファンの心をつかんだ押井守監督にとって初めてのオリジナル作品で、さらに『タイムボカン』などのキャラクターデザインを手がけられ、その後アーティストに転身した天野喜孝氏が共同原案・アートディレクションとして関わられています。
今も現役でありながら、既にレジェンドクリエイターとして世界的な評価を受けている二人が若き日に産み出したオリジナル作品で、圧倒的な映像表現と唯一無二の世界観を持つ作品として知られていました。

【特別映像】『天使のたまご 4Kリマスター』|押井守×天野喜孝 制作当時を振り返る特別対談
公式HP:アニメ『天使のたまご』オフィシャルサイト

このタイミングで4Kリマスターを行うことになった背景を教えてください。

かねてより海外の配給会社から「自分たちに『天使のたまご』を上映させてもらえないか」といった問い合わせをいただくことが多く、海外のアニメファンが待ち望んでいる作品だと常々感じていました。さらに2025年がOVA発売40周年を迎えるということで、何か大規模な施策を打てないかと徳間書店の中で検討を進めていました。

徳間書店は2007年に放送されたアニメシリーズ『電脳コイル』を最後に、自社で幹事作品を大規模に展開することから遠のいていました。しかし、2022年に『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海 4Kリマスター』『銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲4Kリマスター』をCEグループ各社の協力のもと徳間書店の主幹事として劇場公開しました。この時のノウハウをもとに、『天使のたまご』も既存のマスターでそのまま海外販売や上映するのではなく、「4Kリマスター版」という最高の形で全世界に届けられるのではないかと考えたのが企画のスタートです。

普段のお仕事について、また本作における役割について教えてください。

所属するクロスメディア事業部では、徳間書店の書籍の映像化をはじめとする二次利用や、先ほど挙げた『銀河英雄伝説』『電脳コイル』などのアニメや映像作品のライセンス運用を行っています。
『天使のたまご』の4Kリマスター事業は、製作幹事として、クロスメディア事業部で企画立ち上げから予算設計、監督や関係者との調整、リマスター制作の統括、イベント運営、一部の関連書籍の出版、そして上映に至るまでの全てを統括しました。

©田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー ©加藤直之 

銀河英雄伝説 ON THE WEB 

「映像」に対するこだわりについて、詳しく聞かせてください。

本作は映像の白と黒の表現が特徴的な作品のため、劇場公開にあたっては通常スクリーンに加え、Dolby Cinemaでも上映したいと考えていました。映像のリマスターは『銀河英雄伝説 4Kリマスター』に続いてIMAGICAエンタテインメントメディアサービスに担当していただき、コーディネーターの方とは制作が始まるかなり前から『天使のたまご』の4Kリマスターをやりたいと相談をしていました。

Dolby Cinemaで上映するにはHDR(ハイダイナミックレンジ)という規格のマスターを制作する必要があります。HDRは従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)よりも、「黒をさらに黒く」「白をさらに白く」、幅広い色調を出せる規格です。

押井監督は、HDRとSDRの2バージョンのリマスターするための全ての工程に立ち合っていただき、全面的に監修をしてくださりました。4Kリマスター化の重要なポイントであるフィルム粒子をどの程度残すかについては明確なビジョンをお持ちで、現場では常に明確で迷いのないディレクションをしていただき制作はとてもスムーズに進みました。個人的にも巨匠の仕事ぶりを間近で見れたことは幸運でしたね。Imagica EMSのスタッフの皆さまの流石の技術力もあり、Dolby Cinema・通常スクリーンのどちらも、オリジナル版の雰囲気を壊すことなく、元々持っていた豊かな色彩を最大限引き出すことができました。

「音」に対するこだわりについても、教えてください。

銀河英雄伝説 4Kリマスター』で音響のリマスターに拘った結果、劇場で鑑賞された多くのお客様に喜んでいただけたことから、『天使のたまご』でも音響のリマスターには力を入れたく、5.1chサラウンドとDolby Atmosの2つの形態にリマスターすることにしました。
しかし、オリジナルのモノラル音響からDolby Atmosや5.1chに再構築するためには、セリフ・効果音・音楽がそれぞれ単体の素材が必要となるのですが、40年前の作品ということもあり、サウンドトラックに収録された音楽以外の素材はどこにも保管されていませんでした。オリジナルのモノラル音響を疑似的に拡張するという手段もありましたが、単体の素材からリミックスした仕上がりと比較するとクオリティには各段の差が出てしまうので、どうしても諦めきれずにいました。

素材をいくら探しても見つからず途方に暮れていたところ、その時話題になっていたビートルズの新曲『NOW AND THEN』が、デモ音源からAIを用いて音声分離を行い制作されたというニュースを目にしました。ひょっとして『天使のたまご』でも同じ手法が使えるのでは?と思い、各所に相談してみましたところ、ソニーPCLさんがソニーグループ株式会社(以下、ソニーグループ)が開発している音声分離技術を活用して、モノラル音源からセリフ、効果音を取り出し(分離し)単体の音素材を作り、Dolby Atmosや5.1chに再構築する方法を提案して下さいました。ソニーPCLとして劇場公開作品に活用するのは初めての事例ということで、果たして本当にうまくいくのか不安な部分も正直ありました。しかし、ソニーグループさんがこれまで研究を続けてきた独自の音源分離技術を活用し、ソニーグループ・ソニーPCL・音響監督の若林和弘さんの3者が試行錯誤を繰り返し、素晴らしい音響に仕上げていただきました。

本作には基本的には静かな作品ですが、Dolby Atmos・5.1chになったことで、教会の外で降り続ける雨音の奥行きなど全体的に立体感が生まれたのと、時折起こる轟音と静寂の抑揚が際立ちました。さらに現代音楽の第一人者である菅野由弘先生の音楽の美しい旋律を、時代性を損なわずにクリアに聞ける絶妙なバランスで仕上げていただきました。本当に素晴らしい音響になったと思いますので、これからご覧いただく方は、映像だけではなく音響面にも注目して鑑賞いただきたいです。

【特別映像】『天使のたまご 4Kリマスター』|押井守×音響設計監修・若林和弘の特別対談

参考:押井守 × 天野喜孝2025年公開『天使のたまご 4Kリマスター』オリジナルモノラル音源をDolby Atmos化することが決定 ソニーPCLの『Creative Summit』で紹介されました | 株式会社徳間書店のプレスリリース

【前編】はここまで。
【後編】では、PR展開の際の工夫や、展示会やイベント・グッズについて語っていただきました。
後半も是非ご覧ください。